大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)56号 判決

東京都世田谷区宮坂三丁目三七番一〇号

原告

谷口好雄

横浜市港北区篠原北二丁目一一番地二〇号

原告

丸田智規

横浜市港北区新吉田町二四七六番地

原告

田中義彦

千葉県八千代市大和田新田三四八番地一七

原告

沓内芳徳

東京都練馬区上石神井町二丁目二一番二七号

原告

平川正信

東京都板橋区蓮沼町三九番三号

原告

友田圭二

埼玉県富士見市鶴馬二六〇二番三-四一〇号

原告

山下進

札幌市中央区宮の森三条七丁目一番一-四〇三号

原告

藤井政男

原告ら訴訟代理人弁護士

矢島惣平

長瀬幸雄

久保博道

東京都世田谷区松原六丁目一三番一〇号

被告

北沢税務署長

西原宏一

横浜市神奈川区栄町八番地六

被告

神奈川税務署長

渡辺真一

東京都中央区日本橋堀留町二丁目六番九号

被告

日本橋税務署長

野見山雅雄

東京都練馬区栄町二三番地

被告

練馬税務署長

工藤毅欣

埼玉県川越市三光町三六番地一

被告

川越税務署長

赤石好市

札幌市中央区北七条西二五丁目

被告

札幌西税務署長

山崎市司

東京都板橋区大山東町三五番地一

被告

板橋税務署長

田中和

被告ら指定代理人

野崎守

石黒邦夫

被告川越税務署長指定代理人

朝日良知

保科正人

被告札幌西税務署長指定代理人

斉藤昭

西谷英二

佐藤隆樹

川越税務署長、札幌西税務署長以外の被告ら指定代理人

茂木昇

島田明

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らが原告らに対してした別紙1記載の各更正のうち同記載の原告らの確定申告に係る納付すべき税額を超える部分及び同別紙記載の各過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一請求の原因

1  原告らは、いずれも丸静商事株式会社(以下、「丸静商事」という。)の代表取締役又は取締役である。

2  本件各処分の存在

原告らの昭和五七年分の所得税について、原告らは別紙1記載のとおり確定申告したところ、被告らは同記載のとおり更正(以下、「本件各更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下、「本件各賦課決定」といい、本件各更正と合わせて「本件各処分」という。)をした。

3  本件各処分の違法性

本件各処分は、昭和五七年六月一八日開催の丸静商事取締役会における決議により、同社の昭和五六年三月期(昭和五五年四月から昭和五六年三月までの事業年度)に係る役員賞与が原告らの債権として確定したとの前提のもとに、右賞与支給額を原告らの昭和五七年分の給与所得の収入金額に加算して行われたものである。

しかし、右取締役会開催の事実はなく、右事業年度にかかる役員賞与が原告らの債権として確定した事実はないから、本件各処分は違法である。

4  よつて、本件各処分の取消しを求める

二 請求の原因に対する認否

請求の原因1、2の事実は認め、同3の主張は争う。

三 被告らの主張

1  昭和五六年五月二六日開催の丸静商事株主総会において、昭和五六年三月期に係る利益処分につき、役員賞与を支給すること及びその総額を三〇〇〇万円とすることが決議された。

2  昭和五七年六月一八日開催の同社取締役会において、右役員賞与について、原告ら各人への支給額を別紙2の表2(3)の欄記載のとおりに定める決議(以下、本件決議」という。)がされた。

よつて、右時点において、所得税法三六条一項の規定により、右各役員賞与の金額はそれぞれ原告らの昭和五七年分の給与取得の収入金額に該当することとなる。

3  原告らの昭和五七年分のその余の各収入金額、各所得金額及び各控除金額の明細は別紙2の表1、表2記載のとおりであり、右役員賞与の金額を原告らの給与所得の収入金額に加算して原告らの総所得金額及び納付すべき税額を算定すると、別紙1記載の本件各更正における認定額のとおりとなる。(なお、原告田中については、確定申告に係る医療費控除額のうち五万円を否認した。)。

本件各賦課決定については、本件各更正により原告らが納付すべき税額(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた金額。)に国税通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の五の割合を乗じて求めた額の過少申告加算税を賦課したものである。

4  よつて、本件各処分は適法である。

四 被告らの主張に対する認否及び反論

1  被告らの主張1の事実を認める。

2  同2の事実を否認する。

なお、丸静商事の昭和五七年六月一八日付け取締役会議事録(甲第三号証。以下「本件議事録」という。)が存在するが、これは次の経緯により作成されたものである。

(一)  昭和五六年五月二六日開催の同社株主総会で役員賞与の支給が決議されたものの、同社のその後の業績が芳しくなかつたこと、昭和五七年三月に同社が新たに金の商品取引員となり、その許可を得、かつ維持していくために、従前以上の純資産額を必要としたこと等の事情により、各役員ごとの支給額の決定は見送られていた。

(二)  昭和五七年五月頃、同社は日本橋税務署の担当職員から、右賞与について、未払いの場合でも源泉所得税を納付するように指導を受けた。

(三)  所得税法一八三条二項にいう「支払の確定した日」とは、役員賞与の支給決議が支払総額を定めるにとどまり、各人ごとの具体的に支給額を定めていない場合には、各人ごとの支給額が具体的な定められた日をいうべきところ(所得税基本通達一八三-一、同三六-九(二))、同社は、右指導を受けたこともあつて、前記株主総会決議がされた日がこれに該当するものと勘違いし、同法条により同日から一年を経過した昭和五七年五月二六日に支払があつたものとみなされて源泉徴収義務が発生しているものと誤信してしまつた。

(四)  そして、各役員に対する支給額がわからなければ、源泉徴収をすべき税額を算定できないので、納税額算出の計算の便宜上、取締役会が開催されたことはないのに、取締役会が開催され役員賞与の各人別の配分額が定められたかの如く仮装して、前記議事録を作成したのである。

(五)  右議事録に「各人別の配分額が決まらず未払となつたままの、第二六期の益金処分役員賞与について日本橋税務署から未払の場合であつても源泉所得税を納税するようお知らせがあつたから、源泉所得税納税のため次のとおり暫定的に各人別に配分額を決め納税することとするが、賞与の支給は況状が悪く純資産額も低いため未払のままとする」と記載されているのも、以上の経緯があつたからである。

(六)  以上のことは、次の事実からも裏付けられる。

(1) 丸静商事が納付した源泉所得税の納付書の「賞与」欄の「益金処分支払確定年月日」欄には、前記株主総会の開催日である昭和五六年五月二六日が記載されている。

(2) 前記取締役会議事録に記載された金額を役員各人に支給したことはなく、昭和五七年度の年末調整にも算入していない。

(3) 各役員個人の所得税の確定申告にも算入していない。

(4) 同社は、その後前記勘違いに気付き、昭和五九年一一月、前記源泉所得税の誤納額の還付申請をし、還付を受けている。

(5) 同社には昭和五七年六月一八日の時点で各人ごとの支給額を決める実質的理由が全くなかつた(未払いのままとすることを前提に、支払うことを前提とする各人ごとの支払額の決定をすることは矛盾であり、無意味なことである。)。

3  同3の事実のうち本件役員賞与に係る所得金額を否認し、その余の各収入金額、各所得金額及び各控除金額を認める。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件役員賞与支給額の確定の有無

1  被告らの主張1の事実(総額三〇〇〇万円の役員賞与を支給する旨の昭和五六年五月二六日付け株主総会決議の存在)は、当事者間に争いがない。

2  本件決議の存否

(一)  本件決議がされた旨の記載がある本件議事録が存在することは原告らの自認するところであり、甲第三号証の記載並びに成立に争いがない甲第二、第六号証及び乙第二号証によれば、同議事録に押捺された代表取締役及び各取締役の印影は真正に作成された丸静商事の取締役会の議事録及び株主総会の議事録に押捺された各印影と同一のものであることが認められ、したがつて、本件議事録中の右各印影部分は真正なものと推認されるから、本件議事録も真正に成立したものと推認することができる。

そうすると、本件議事録の記載からして、本件決議が実際に行われたものと推認するのが相当である。

なお、成立に争いがない甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、丸静商事が、本件議事録記載の各役員ごとの支給額を前提として、昭和五七年九月六日に本件役員賞与に係る源泉所得税を納付していることが認められるから、本件議事録中に被告らの主張に対する認否及び反論2(五)の「暫定的に配分額を決める」等の文言の記載がある事実は、これを以て右認定を覆すに足りないものというべきである。

(二)  原告らは、本件議事録は便宜的に作成されたもので、本件決議は不存在であると主張する。

しかし、原告らが右主張の根拠としてあげる被告らの主張に対する認否及び反論2(三)の丸静商事において本件役員賞与の支払が昭和五六年五月二六日付け株主総会決議により確定したと誤信していたとの事実及び同事実の存在をうかがわせる同2(六)(1)の事実、さらに同2(四)のうち、源泉徴収をすべき税額を算定するため各役員に対する支給額を決定する必要があつたとの事実は、これらの事実を前提として本件決議が行われたとしても何ら不自然なものではないというべきであるから、いずれも本件決議の存在の認定を妨げる事実とすることができない。

同2(六)(2)のうち本件役員賞与が支給されていない事実は、成立に争いがない甲第五号証によれば、昭和五八年三月三日開催の丸静商事取締役会において、同時点で未払いであつた本件役員賞与につき、その支払債務を免除する旨の決議がされ、支給されないことが決定されていることが認められるから、本件決議の存在の認定を妨げるには足りない。

同2(六)(2)のうち本件役員賞与が年末調整に算入されていない事実及び同2(六)(3)の事実は、本件役員賞与が未支給であつたことにより、丸静商事及び原告らにおいて、年末調整及び確定申告においてこれを各役員の所得額に算入する必要がないと考え、原告主張の税務上の各処理が行われたものと推認することができるから、本件決議の存在の認定を妨げるに足りないものである。

同2(六)(4)の事実は、成立に争いがない甲第五号証の一ないし三、及び乙第一、第六号証並びに弁論の全趣旨によれば、丸静商事の昭和五八年三月期の法人税確定申告の時点及び同社が同年九月に東京国税局により税務調査を受けた時点において、同社関係者は、本件決議の不存在を主張せず、前記昭和五八年三月三日開催の取締役会における本件役員賞与の免除決議によつて発生した免除益について法人税基本通達四-三-三の適用がある旨の主張をしていたところ、これが認められずに同社が更正を受けるに至つたこと、同社は右更正を争つて審査請求を行い、審査請求提起後に原告ら主張の還付請求を行つたこと及び被告日本橋税務署長が、一旦は還付をしたが、右還付が誤つているとして、昭和六〇年一〇月三一日付けで本件役員賞与に係る源泉所得税の納税告知を行つたことが認められるから、本件決議の存在の認定を妨げるに足りないものというべきである。

また、原告は、昭和五七年六月一八日の時点で各人ごとの支給額を決める実質的理由がなかつた旨を主張する。しかし、原告の主張によつても、本件役員賞与につき源泉徴収を行うために各役員ごとの支給額を決定する必要があつたことになり、右決定の正当な手続は取締役会において各支給額を決議することであるから、本件決議を行うについて実質的な理由があつたものということができる。さらに、原告は、未払いのままとすることを前提に各役員ごとの支給額の決定をするということは矛盾であると主張するが、前記乙第一、第二号証及び弁論の全趣旨によれば、丸静商事は、役員に仮払金として別紙3記載の金額を支出していたところ、商品取引所からこれを解消するように指導を受けたため、これを清算する目的で被告らの主張1の賞与支給の決議を行つたことが認められるから、右賞与については本来早急に各役員ごとの支給額を決定して早急に清算する必要があつたものということができ、したがつて、同社の業績不振等、賞与を一時的に未払いとすべき事情が存在したとしても、将来の支給を前提として各役員ごとの支給額を決定することに何ら支障があつたとは解されない。

なお、乙第二号証(小川義寛の証人調書)中、本件決議が存在しなかつたとする証人小川義寛の供述部分は、丸静商事関係者からの伝聞を述べたものにすぎないから、これを採用することができない。

(三)  以上のとおり、原告ら主張の各事実はいずれも前記認定を覆すに足りないから、本件決議が存在し、これによつて別紙2の表2(3)の欄記載の金額の役員賞与を原告ら各自に支給することが確定したものと認めることができる。

したがつて、本件役員賞与は原告らの昭和五七年分の給与所得に係る収入金額に算入されるべきことになる。

三  本件役員賞与以外の原告らの昭和五七年中の各収入金額、各所得金額及び各控除金額の明細が別紙2の表1、表2記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

右各収入金額、各所得金額及び各控除金額を前提に、本件役員賞与を原告らの昭和五七年分の給与所得に係る収入金額に算入して原告らの総所得金額及び納付すべき税額を算定すると、別紙1記載の本件各更正の金額のとおりとなることが認められる。

そして、原告田中、同沓内及び同山下について、国税通則法六五条一項の規定に基づき本件各更正に係る過少申告加算税の税額を算定すると、それぞれ別紙1記載の本件各賦課決定の金額となることが認められる。

したがつて、本件各処分はいずれも適法なものと認められる。

四  よつて、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官 中山顕裕)

別紙1

本件各処分の経緯

1 谷口好雄 処分庁 北沢税務署長

〈省略〉

2 丸田智規 処分庁 神奈川税務署長

〈省略〉

3 田中義彦 処分庁 神奈川税務署長

〈省略〉

4 沓内芳徳 処分庁 日本橋税務署長

〈省略〉

5 平川正信 処分庁 練馬税務署長

〈省略〉

6 友田圭二 処分庁 板橋税務署長

〈省略〉

7 山下進 処分庁 川越税務署長

〈省略〉

8 藤井政男 処分庁 札幌西税務署長

〈省略〉

別紙2

表1 各原告の昭和57年分課税所得金額の計算表

〈省略〉

注 各欄の(  )内は確定申告の金額である。

表2 各原告の昭和57年分給与所得金額の算出表

〈省略〉

注 給与所得控除〈4〉の計算は、昭和59年法律第5号による改正前の所得税法の規定による。

別紙3

役員に対する仮払金の内訳表

(金額単位 円)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例